マンションリノベーションで断熱工事が必要な理由と工事の中身

こんにちは!設計の仲田です。

マンションは多少古くても比較的気密性は高く、古い木造住宅のようなレベルのすき間はないのですき間風もそれほどない。それに中住戸であれば周りが住戸で囲まれているので、暑さ寒さの影響もかなり少なくなる。

そうしたことからマンションは寒くない、暖かい、というイメージがあるみたいですね。なのでわざわざ新たに断熱工事まで行うのは、まだまだあまり一般的ではないようです。

 

でも中古マンションの温熱環境って、実は思っているよりもよくないんです。結露も発生するし・・・。

本来なら、それを解決するためにもマンションリノベーションで断熱補強工事をするべきなんですが、残念ながら、断熱補強までする会社はまだまだ少数派です・・・。

 

今回はマンションリノベーションでどうして断熱工事が必要なのか、そして具体的にどういう断熱工事をしたらいいのか?いろいろとお伝えします!

窓下のクロスがめくれる理由の一つは結露が原因。写真ではわからないが、壁紙には一部カビもある。

 

マンションは暖かくて快適なのに断熱工事って必要?

暖かいイメージのマンションですが、基本的に、中古マンションの断熱性能はかなり貧弱です。

解体すると断熱材がない物件もありますし、断熱材が吹き付けてあってもかなり薄く、解体時に壁のボードを剥がすと裏側にカビがびっしり、なんていう状況も普通にあります。

実際、マンションに住んでいる方に話を伺うと、

・北側の部屋は結露してベタベタになる
・リビングはいいけど廊下に出ると寒い
・夏は暑くてエアコンが効かない

という環境なんです。だから、マンションは決して快適ではないんですね。

 

下図はよくあるマンションの間取り。今の新築マンションでもだいたい似たような構成です。

青色の廊下部分に面する北の洋室、洗面脱衣、UB、トイレは、LDKとドアで区切られているので余計に温度差ができやすい

ではこんな一般的なマンションで、例えば冬はどういう環境なのかというと、LDKは快適だけど、ドアで区切られた青色の廊下部分は玄関からの冷気が伝わってきて、とても寒い空間になります。

 

断熱性能がそもそも貧弱なのに、より温度差を促進する間取りになっているので家の中に温度差があるのはある意味当然だったりします・・・。

 

「でもエアコンがない廊下や、エアコンの運転をしていない部屋が寒い暑い、というのはしょうがないのでは?」

って思う人がいるかもしれません。

でも、そういう認識自体が実は、あまり正しくないことで・・・。

 

日本の住まいって、残念ながら先進国の中でもかなり断熱性能は低い。

その証拠に、いまだにマンションではアルミサッシが使われていて、結露は冬の風物詩となっている・・。

あまりにも当たり前に目にしているから、そのこと自体が冬はしょうがない、という認識かもしれません。

 

でも基本的に住まいって、室内に大きな温度差が生じない環境であるように計画することが普通なんです。

快適ではない、過剰に温度差が生じる住まいはそもそも当たり前の環境ではないんですね。

 

北側の部屋が寒い、廊下が寒い、というのは普通なことではなくて、性能設定も含めた、設計計画がよくないから生じる現象なんです。

残念ながらそれが日本の多くの中古マンションの現状。また、新築マンションであっても、それほど高い断熱性能があるわけではなく、基本的にはあまり変わらない感じでもある・・・。

結露が続くと、シート貼りの窓枠はシワがでたり、よじれたりする・・・

そうした性能だと、結露によって窓枠は濡れてしまうのですが、マンションの窓枠って、シート貼り新建材が多く、そうした素材は、上の写真のように表面にしわが出たり、めくれてきたりと傷みやすい。

 

またサッシは結露するからまだわかりやすいんですが、壁紙も同じように結露しますから、カビも生じるんですね。

多くのマンションは断熱性能が低いので、北側の部屋の壁にはカビが出ていることも多い・・

見た目にも不快ですが、アレルギーの原因にもなるわけで、結露する環境って、住まいの耐久性を悪化させるし、見た目も悪いし、健康にもよくない・・・

 

だからせっかくリノベーションをするのであれば、正しく断熱補強をして快適な環境にするべきなんです。

仮に断熱補強をしなければ、最初のうちはそこそこきれいだったとしても、結露は毎冬生じるわけで、時間とともに、窓枠のよじれとか、カビが生じたりしてきます。

断熱性能の不足、という根本的な原因を解決しないリノベーションは、ただ問題を先送りにしているだけなんです・・

 

無断熱の中古マンションの断熱性能

ではマンションリノベーションをする際には、実際に、どんな断熱工事をすればいいのか?実際の物件で断熱計算をしてみました。

75㎡の南北に長い中住戸型の物件。よくある一般的なマンションです。

上記は断熱計算に必要な概要です。

解体したら、下記写真のように無断熱でした・・・1982年築の物件です。このころの物件ではたまに出てきますね・・・(;^_^A

北から南を見た様子。外壁面ですが、断熱材はありません。

南から北を見た様子。南と同様、無断熱です。

さて、このまま断熱補強をしない場合の断熱性能はいったいどうなるか?

細かい解説は省略しますが、熱損失は約147W・Kとなります(下記グラフ参照)。

リノベーション前の断熱性能

これ、戸建ての次世代省エネ基準レベルの住まいのモデル計算結果なんかと比較すると、無断熱なのに損失熱量がかなり少ないな・・みたいになるんですけどね (;^_^A

じゃあ、快適なのか?というと、そうではなくて、断熱材がなければ結露するし、カビが生じるし、暑さ寒さの不快さは相当なものになります。

 

無断熱から適切な断熱補強工事をすると熱損失は5倍以上も違う

ではこの物件を私たちがよく行うフェノバボードという断熱材を張り付けて、サッシ部には樹脂製の内窓を設置し、ハニカムスクリーンというブラインドを設置する断熱補強仕様にするとどうなるか?

結果、熱損失量は約26W・Kとなりました。無断熱と比較するとその差は5倍以上。ものすごいエネルギー消費の差です。

リノベーション後の断熱性能

なおここでは換気による損失は表示していませんが、ざっくり30W・K程度というところかな。マンションでは熱交換型の換気ができないので割合としては大きいですね・・。

中住戸マンションの場合、隣接住戸があることで、基本的には南北面だけで熱が損失します。これが一戸建てとの大きな違い。実際には隣接住戸に熱が損失する場合もあると思いますが、それをどう加味するのかはなかなか難しい・・・。

まあ、細かな点はさておき、こうした計算の比較により断熱補強の有無でどういう差がでるのかが見えてきます。

 

単純にエネルギー消費の差の分は冷暖房費の違いにもなりますけど、それ以上に大きいのが、体感的な快適性の違い。ちゃんと断熱されていない住まいは、たとえ同じ温度だとしても体感温度にも大きく差がでてきますからね。

 

ただこうした無断熱の物件が快適ではないことは計算しなくてもある意味当然です。

基本的には中古マンションでも断熱材が吹き付けてあることが多く、その厚みは10~20mm程度。ではその場合にはどういう性能になるかというと、ざっと計算すると、熱損失量自体は80W・K前後くらいになります。これは、今回の断熱補強をした住まいと比べるとざっと3倍程度の差。

 

熱損失量自体は戸建てと比べると少ないんですけど、だからといって快適ではない。実際には結露したり、カビが生じたり、温度差で寒いわけですしね。

 

いろいろごちゃごちゃと説明してきましたが、結論を言えば、今回提示したレベルの断熱補強工事をすることで、エアコン1~2台で、大きな温度差もなく、おおむね快適に過ごすことができます。結露で悩まされるようなこともまずありません。

欲を言えばもう少し性能を高めたいところではあるけれど、コストも含めて、バランスとしてはこれくらいを基準レベルとするのが妥当ではないかと思いますね。

 

現場状況と面積によっては吹付断熱での施工がオススメ

施工面積が多い角部屋なんかは吹付断熱ができるとよりよいです。

ただ、吹付工事の場合、吹付けする機械を搭載した専用の車両が駐車できるスペースが必要ということもあり、場所によってはそれができない場合もありますから、そこがネックですね。

 

さて、吹付断熱の利点は、写真のように既存の吹付部の上からも吹付ができる点。

解体撤去後は既存の断熱部分は写真のように凸凹している。吹き付ければそうした凸凹もあまり関係ない。

吹付けた断熱の厚みを確認。

吹付け完了後の状態こんもりとしっかり断熱されてますね。

均質に施工できるのは魅力です。

携帯型の吹付方法なんかもあるんですが、かなり高コストだったりもしますから、コストも含めて、施工方法をいろいろと検討して、一番ベストな方法を選択するのがいいですね。

 

最上階は天井の断熱補強をしないと夏は過ごせない

さて、壁の断熱だけではなく、天井面にも断熱が必要な場合があります。それは最上階の物件。または上部がルーフバルコニーなど外部に接している物件ですね。

既存の天井断熱はかなり薄く20~30mm程度。これでは夏はまったく効果はないと言ってもいい状態・・・。やはりできる限り厚くする必要があります。

 

とはいえあまりに厚くすれば限られた天井高さがより低くなってしまうので、そのあたりをどう調整するのかは状況をみて判断となります。

基本的には、天井高さが許せば、100mm程度の断熱材を張り付けます。性能が一番高いフェノール系で100mmタイプのものはないため(2021年9月現在)、施工のことも考えて、ミラフォーム、という製品を採用しています。

マンションリノベーションではこれを過剰と思う業者の方が多いと思いますが、決して過剰なレベルではなく、可能ならまだ厚くしたいくらい(苦笑)。

天井に1枚張り付いているのが100mmの断熱材。コスト、性能値、厚み、物件の既存の高さなどを考慮して、どのような断熱材を選定するのかを決める。

これくらいしないと最上階の物件は、どれだけ中身をかっこよくリノベーションしても、温熱環境的には夏暑くて冬寒いまま。エアコンも全然効きません。

これは実際に暮らしている方がそういう話をしていますから、ウソでもなんでもない。

断熱補強工事は後から簡単にできる工事ではないので、暮らし始めてからやっぱりやっておけばよかった、とならないよう、よくよく、知っておいて欲しいですね。

 

なお、私たちはこれまでに経験したことはないのですが、1階の物件の場合は床の断熱補強が必要になります。床下に住戸がなければ、断熱する必要があります。

このように断熱工事は「外部に接している」という物件の状況を正しく把握できるかどうかがまず大事。

そうした物件の環境を踏まえて適切な提案をすることがリノベーションには必要だと思います。

 

内窓とハニカムスクリーン

断熱補強をすると、今の普通の新築マンションよりも高い断熱性能を得ることができるのがリノベーションの良さでもありますね。

でもそれだけではまだ不十分。

先ほどの計算の説明でも少しだけしましたが、サッシ自体はアルミサッシなので、熱的な性能はかなり弱い。

なので、内側に樹脂窓と、断熱性能があるブラインドを設置は是非して欲しいです。

サッシ部分ってかなり熱を損失している部位なんですね。計算するとそれがよくわかります。

白い枠部分が内窓。その奥に、ある黒い枠が既存のアルミサッシ。これにより、かなりの暑さ寒さを遮ってくれます。

ハニカムブラインドは空気層があるので、断熱効果が高い。

サッシ部の断熱補強をすることで、結露でベタベタ、ということで悩まされることはなくなりますし、何よりかなり暑さ寒さを解消してくれます。

夏の暑い時期は内窓を開けたとたん、ものすごい熱を感じますが、内窓がなければ、その熱が室内に入り込んでいるわけなんですね。

そうするといくら壁を断熱していても、やっぱり快適さは小さくなります。だから基本的には断熱補強+内窓の設置+ハニカムスクリーンの設置という仕様をベースにするのがいいと思います。

 

終わりに

以上が断熱補強工事の概要です。まだまだ説明が足りない部分もありますが、中古マンションで断熱補強をすることの大切さを知ってもらえたらと思います。

なおここでは話が少しずれるので解説していませんが、よくあるマンションの間取りのように、北側に個室が二つあるような、閉鎖型の間取りの場合だと、性能を高めたとしてもやはりある程度の温度差が生じやすくなります。

なので、引き戸を活用したり、回遊できるような動線をプランに取り入れるなどして、室内の空気が循環しやすい環境にもして欲しい。

参考:マンションリノベーションの間取りで失敗しない具体的なポイント

 

そうすることで、うまくいけばエアコン1台で、過剰な温度差がないまずまず快適な環境にすることが可能です。もしくは南と北に1台ずつ。小さめのエアコンを設置する形でもいいですね。

より均質な温熱環境を得るにはマンションでは珍しいんですが、ダクト配管による全館空調方式という手法もあります。

この方式は閉じた空間でも冷暖房を利かせやすいので、より温度のムラがなく、非常に快適に過ごすことができる手法の一つです。

 

マンションリノベーションでは、こうした温熱環境を考慮した設計提案はあまり見受けられないのが実情です。

もちろんコストがかかる面はありますが、あまりにも配慮がなさすぎるリノベーションの在り方は決して当たり前にしてはいけないと思いますね。

長く快適に住まうためにも、リノベーションを検討するならぜひ、断熱補強をして欲しいです。